サイエンスの意義を、プロダクトに活かす━━社会を動かすイノベーターたちのプロジェクト Vol.3 株式会社マンダム(中編)

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男性用スキンケア市場でロングセラー商品を次々に生み出してきた、株式会社マンダム。その背景には、男性の肌や頭髪、見た目といった長年にわたる研究データの蓄積があるという。日々それらの研究に取り組む2人の研究者に、幅広い分野に及ぶ研究の面白さ、奥深さを聞きました。

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男性の見た目の若々しさはスキンケアで改善する

10年以上にわたる男性肌の継続調査に続いて実施した、ミドル男性へのスキンケア実験の結果で、何がわかったのか。橋本さんは次のように語る。

「40歳前後の肌の衰えを実感している男性20名に対して、男性の肌状態を考慮して処方化したモデル乳液による4週間のスキンケアを行いました。その結果、モデル乳液連用後は連用前より有意に肌状態(角層水分量、バリア機能、皮膚粘弾性、キメ)が改善する結果が得られました。印象評価においても、乳液の連用前と連用後では、『若々しい』と感じる数値が向上することがわかり、加齢によって低下した男性の見た目の若々しさを、スキンケアで改善できることが示せたと考えています」

男性の約10年の経年変化前後の顔画像に対して、見る人がどのような印象を受けるか、「若々しさ」以外の印象ワードでも調査を行っている。その結果を見ると、「親しみやすい」「健康的な」「モテそう」などのポジティブな言葉がのきなみ減少し、「疲れている」「イライラしている」「ケチそう」などのネガティブな印象が強まるという、ミドル男性にとっては厳しい現実も明らかとなった。

ミドル男性へのスキンケア実験2005年、2016 年に撮影した顔画像に対して、VAS 法(※3)を用いた第三者の男女計 92 名(20 代、40代)による見た目の印象評価の結果。加齢による変化を分析した結果、「若々しい」という印象が最も大きく低下していることが明らかとなった。

※3 視覚的評価スケール:Visual Analogue Scale 法: 一直線上の左端に「そう思わない」、右端に「そう思う」という項目を記し、評価者が直線上のどの位置を指すかで印象を評価する方法。

「私たちの調査では、一般的に多くの男性は自分の見かけについて、実際よりもマイナス5歳ぐらいのイメージを抱いていることがわかっています。『自分はまだ若い』と思っていても、他の人から見ると残念ながらそうでもないんですね。顔の部位による状態の差が大きいのも、男性の肌の特徴です。顔の皮脂が多い『脂性肌』に悩まれる人もいますが、そういう人でもひげ周りやほほの周りは角質層の水分が減少して、粉が吹いたように乾燥していたりします」(山口さん)

『人は見た目が9割』というビジネス書がしばらく前にヒットしたが、近年は男性ビジネスマンの間でも、身だしなみや清潔感が仕事の成果にも大きく影響する可能性が高いという認識が高まっている。そのためスーツや靴など、身につけるものに気を遣う人は増えているが、スキンケアに気を配る人はまだまだ少ない。

「この研究の後で私たちは、人がミドル男性の顔を見たときに、どの部位で印象を判断するかの調査も行いました。アイトラッキング(視線計測装置)という機器を用いて、顔を見たときの視線の移り変わりを計測してみたのです」(橋本さん)

 

人は相手の「顔」のどこを見ているか

人は相手の「顔」のどこを見ているか

相手の「顔」のどの部位を見ているかを確認するため、19人の第三者に、男性の「若々しい印象」について評価してもらう試験を行った。40枚の顔画像を1枚あたり5秒間見せて、その間の視線計測を実施した。顔の画像を10の部位に分割し、それぞれの部位が平均して何秒間見られているかを算出した。

「その計測結果からわかったのが、第三者が『若々しい』という印象を判断するとき、『目の周辺』に次いで『ほほ』のあたりを最も長い時間見ているということです。目の周辺が顔の中でも注視される場所であることは以前から知られていましたが、『ほほ』がその次に見られていることは私たちもその結果で初めて知りました。『ほほ』は顔の中で、肌質特徴が顕著に表れる部位です。つまり他人から『若々しい印象』を持たれるためには、肌を若々しく保つことが、とても大切なんです」(橋本さん)

これらの研究分析にあたっては、科学的に厳密なデータを取るための苦労も大きかったという。

「印象に関する調査は延べ300人以上の評価者に協力いただき、10万回以上に及ぶ質問によってデータを集めました。苦労した記憶でいえば、顔画像の表示順による影響をなくすためすべてランダムな順番で提示したり、疲れを考慮して適宜休憩をとってもらったりなどの細かい配慮を行ったことでしょうか。質問についてもどんなワードを設定するか、私たち研究部門だけでなく、社内のさまざまな部署とディスカッションするなかで決定していきました」(山口さん)

「それだけ苦労した研究でしたが、研究成果をまとめて前述の『日本顔学会』で発表したところ、大学や企業の研究者を中心とした40代、50代の聴講者の方々から、どよめきが起こりました(笑)。皆さん当事者なので、きっと自分の見た目の若々しさが低下していることにうすうす気づいてはいても、性格や中身についての印象までが変わっていることに、インパクトを感じていただいたようです」(橋本さん)

これらの研究成果を多くの人に知ってもらうことで、これまでスキンケアをしてこなかった男性に、自社製品をぜひ使ってもらい、その効果を試してもらいたいと二人は話す。

「女性の場合、スキンケアの基本は化粧水・乳液・クリームというのが『常識』ですが、男性がその3つをそろえて、毎日肌のお手入れをするのはなかなかハードルが高いと思います。私たちが販売する『ルシード』のトータルケアシリーズでも、ラインナップとしてその3つを用意していますが、女性のようにステップ使いをせずに、どれか一つだけを肌に塗ってもお手入れが完了できるように設計していますので、ぜひトライしてみてほしいですね」(山口さん)

 

男性用化粧品を使い続けてもらうためには

男性用化粧品を使い続けてもらうためには
「スキンケアにおいて大切なのは、その使用感です。一度使ってみても、ベタつきを感じたり、肌に合わない感じがしては、継続して使ってもらえません。スキンケアの良さをしっかり感じてもらうためには、いかに気持ちよく使い続けてもらえるかが重要になります。私の部署では、男性に心地よく使い続けてもらえることを常に念頭において製剤の研究を続けています」(橋本さん)

マンダムの調査によれば、新入社員の肌が荒れていた場合、先輩社員の5人に1人が、「生活習慣が乱れているのではないか」と感じるという。肌の印象を若々しく見せるには、20代のうちからのスキンケアが重要であることから、ミドルエイジだけでなく若い男性にもぜひ今のうちから自分の肌に関心を持ってほしい、と2人は話す。

(次の記事へ続く)

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

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