リーダーシップは何にでも使える。学びから行動を引き出す、立教大学「他者のリーダーシップ開発」講義見学レポート

リーダーシップは、誰にでも必要━━。
そう考え、学生にリーダーシップを教える立教大学経営学部・舘野泰一先生、髙橋俊之先生。前回の記事では、その基本的な考え方をお聞きしました。さらに本記事では、実際の授業の様子を見学させていただきます。
どんな立場の人でも必要な、成果をあげるための技術を、早いうちから学ぶ人たちがいます。「リーダーシップなんてわたしには関係ない」と考えていた人にも読んでいただきたい記事です。

前半の授業を振り返り、おのおのの持論を交換

見学したのは「他者のリーダーシップ開発」がテーマの授業。全14回のうち8回目の授業で、ちょうど折り返し。前半で学んだことのまとめをするという内容でした。30人ほどが収容できそうな教室では、授業が始まる前から学生が3人ずつのグループになり、机を突き合わせています。

この授業には、学部学年関係なく、受講を希望する学生が集まっています。また、授業のサポート役となるStudent Assistant(SA)として、経営学部3年の磯野真那さんが参加していました。

授業冒頭に舘野先生が今回の授業の趣旨を話し、間もなくグループワークがスタートしました。ワークの内容は、これまで授業を受けてきた中で確立したおのおのの持論について、意見を交わすこと。過去7回の授業では、主に「リーダーシップとは何か」「よい振り返りとはどのようなものか」「やる気が出る条件とは」といったことを学んできたようでした。

「自分らしいリーダーシップとは何か」、「自分のモチベーションの源泉とはどのようなものなのか」などについて、どのグループでも活発に意見が交わされ、時折「分かる」「私はこう思うけど、どう?」といった声が聞こえ、共感したり意見を述べたりしながら盛り上がっている様子がうかがえました。

 

人に教えることで、より深い学びが得られる

次に、各自で事前に取り組んできた課題をもとに、再びグループワークが行われました。課題は、「今までの授業で学んだことをテーマに、人に教える文章を書くこと」。人に教えるということは、学んだことを抽象化して要点をつかむということが必要になるため、より学びが深まるという意図で行われていました。

ワークでは、読んでみて分からなかった部分を指摘し合ったりすることで、よりよい文章、より深い学びになることを目指します。「冒頭に誰もが経験したことのあるような具体例を入れて、読者を引きつけてはどうか」「論理思考について、論理思考が必要な理由は書かれているけれど、そもそも論理思考とは何なのかを書いたほうがいいのでは」「実は、書いている自分もその答えを探している途中なんだよね」といったように、新たな課題や新たな気づきが得られているようでした。

ひと通りのワークを終えてから、舘野先生より課題の講評がありました。舘野先生が良いと思ったものは、「読み手を想像しながら、たとえ読み手に基本的な知識がまったくなくてもなるほどと思えるもの」。そのためには、ある程度の文字数は必要とのことでした。また、「学んで得られるプラスのことと、学ばなかったときのマイナスのことを述べると、読者が入ってきやすい」とも話されていました。

 

どうすればやれるのかを考えれば、結果的にやる気は引き出せる

この日最後のグループワークでは、「組織の課題」について話し合うことがテーマ。グループワーク後は、話し合った課題をいくつか全体で共有しました。

その中の一つとして挙がったのは、スポーツ系の部活での課題。例えば高校であれば、普段の練習では1~3年生が同じように練習しているけれど、大会前には試合に参加する2、3年生に練習時間が集中してしまう。将来、チームのメンバーが入れ替わっても実力を発揮し続けるためには1年生の力を伸ばしていくことも必要なのに、大会前はどうしても試合に出場する2、3年生が優先されてしまうため、毎年勝てるようなサイクルをつくるためにはどうしたらいいかということでした。

これにはみんな共感できるところがあるようで、うなずきながら聞いている様子が見られました。

授業の最後に行われたのは、事前に集めたディスカッションテーマで挙げられた疑問をいくつか取り上げ、舘野先生や髙橋先生が回答していくというもの。時には学生さんの意見も聞きながら、展開していました。

印象的だったのは、「動いてくれない人を動かすには」というテーマに対する回答です。「一見やる気がないように思えても、本当はそうではないことは多い」と髙橋先生。「それを『やる気がない』と言葉にしてしまうことで、本当にやる気を失ってしまう。“本当はやりたいと思っていて条件がそろえば動くはず”と思い、どうすればやれる、あるいはやりたくなるのかを考えてみよう。その結果、人が動くことは実は多い」と語っていました。

ディスカッションテーマは尽きない中、授業は終わりの時間を迎えました。全員が前のめりで参加し、学びを得ている様子が授業全体を通して感じられました。

この舘野先生・高橋先生の授業は、理論だけでなく、実践することとそのフィードバックでできあがっています。また、そのテーマは「他者のリーダーシップ開発」、つまり他人に教えるということです。この、実践・フィードバック・教えるという3つの要素は、深い学びのために最も有効だと、多くの人が挙げる本質的なポイントです。
こうした授業を、先生と共に作り上げていく(記者にはそう見えました)みなさんは、非常に頼もしい存在感を放っていました。

 

受講生に聞いた、リーダーシップを学ぶ理由・学びが役立った経験

授業を終えてから、3人の受講生とSAの磯野さんにインタビューを行い、この授業に参加している理由やリーダーシップが発揮できたと思う経験などを聞きました。

【1】社会学部3年 田中佑樹さん

――なぜこの授業を受けようと思ったのでしょうか?

1年生のときに別のリーダーシップの授業を受けたのですが、そこからしばらく間が空いて、何にもやる気が出ない状態になってしまったんです。周囲とのギャップもすごく感じていたので、ここでやる気を持ち直そうと思って受講しました。

また、「他者のリーダーシップ開発」ということで、実際にリーダーシップを開発したいと思う対象がいたというのも一つの理由です。それは、出身高校の部活動の後輩たち。練習を真面目にするのはいいのですが、そこから自分の弱点を客観的に理解するような振り返りの場がないと感じていました。技術力はあるのにもったいないと思い、技術面以外で後輩の成長をサポートできたらと思ったんです。

――実際に、授業で学んだリーダーシップが役立ったなと思うことはありますか?

高校1年の後輩に、ゲーム練習で自分の思うようにいかなければ勝手にイライラし、相手にもそういった態度を見せるという子どもっぽいところがある子がいたんです。そこで、その子へのアドバイスとして、「そういう態度になってしまうとパートナーにも迷惑がかかってゲーム全体も悪くなり、自分の学びもない。でも、今の時点で改善できればもっとうまくなるよ」と話しました。結果、その子はそういう態度を見せなくなって、自分がうまくいかなくてもどうやったら改善できるのかを尋ねるなど、前向きに動いてくれるようになりました。

――今後、リーダーシップはどのような場面で必要になると思いますか?

他者が自分と関わることで、その人にとってよりよい結果や、新しい価値観をもたらすことができるようにするために必要なものだと思います。

【2】法学部2年 辻本光咲さん

――なぜこの授業を受講しようと思ったのですか?

私はこの授業を受ける前に別のリーダーシップの授業を受講していたのですが、それは単純な興味からでした。法学部の授業は講義形式で、教授の話を聞いてメモするスタイル。でも、リーダーシップの授業はチームを組んで一つの目標に取り組んでいくというやり方なので、その形式自体がとても面白そうだなと思ったんです。実際に受講してみたら、自分のリーダーシップについて思いがけず深く学ぶことができ、自分を成長させていくうえで必要な授業だなと感じました。それで、今回の受講も決めたんです。

また、2年生になってサークルに後輩が入り、後輩をマネジメントする機会も増えてきました。そのときに、他者のリーダーシップを把握してどうマネジメントするかを考えるという力が自分には足りないなと感じました。そこで、「他者のリーダーシップ開発」というテーマにも興味を持ったんです。

――実際に、この授業での学びは役立っていますか?

サークルのフィードバック会では、具体的な提案が自分からできるようになりました。前よりも良いフィードバック会ができるようになり、それは後輩の学びにもつながっていると思います。後輩もただマネジメントされるだけではなく、どんどん前に出てきて、私に対してもアドバイスをくれたり、積極的に質問してくれたりするようになりました。

――今後、リーダーシップはどのような場面で必要になると思いますか?

何にでも使えると思います。グループで活動することは、この先会社に入ってもやらなければいけないこと。なかには自分が考えているように動いてもらえなかったり、モチベーションが上下してしまったりすることもあると思いますが、そういうときにどうアプローチすればいいかを知っていれば、チームをもっと効率的に動かしてよりよい結果が出せるのではと思っています。

【3】経営学部1年 種田京平さん

――この授業を受講した理由を教えてください。

もともとリーダーシップを学びたいと思って、立教の経営学部に入学したんです。経営学部は必修としてリーダーシップの授業があるので、さらに発展したこともやってみたいと思い、この授業も受講しました。この授業は全学部の学生が受けられるようになっているので、いろいろな学部の人からいろいろな話を聞くことが刺激になると考えたのも、一つの理由です。

――なぜリーダーシップに興味を持ったのですか?

高校生のときに立教の経営学部に入学した先輩から話を聞き、まずは経営学に興味を持ちました。僕の高校でもグループワークで進めていく授業が多く、なじみのあるスタイルだったので、リーダーシップを座学だけでなくグループワークで学べるというのは面白そうだなと思ったんです。

――実際にリーダーシップが役立ったと感じたことはありますか?

僕は人を見るときに役立てています。その人のリーダーシップとその人の性格は、ニアリーイコールだと思うんです。新しいグループに加わったとき、最初はグループの雰囲気も分からないけれど、話を聞いて性格を客観的に判断できるようになると、自分がグループにどう関われば貢献できるかの糸口が見えやすくなる。まだ人に影響を与えることまではできていないけど、今後は影響を与えていきたい。今は最初の一歩を踏み出したところですが、この授業がすべてのきっかけづくりになっているなと感じます。

――社会に出るうえで、リーダーシップはどんなことに役立ちそうですか?

グループで仕事を進めていく機会は多いと思いますが、いち早くグループの現状を察し、率先して問題解決へのアプローチができるのではと思います。また、効率化やグループの関係の向上にも役立ちそう。小さなことですが、僕の行動が他者のモチベーションにつながり、それが会社全体に広まって、全体的な成果が上がればいいなと思っています。

【4】経営学部3年 磯野真那さん(Student Assistant)

――磯野さんはSAとしてこの授業に参加されていますが、具体的にはどのような役割を担っているのでしょうか?

先生のサポートをしています。この授業は今期初めて開講した授業でもあるので、事前の打ち合わせで、先生が「こう説明しようと思っているんだよね」と言うことに、学生の立場から「その説明だと学生がイメージしにくいので、こういう例はどうでしょうか」などのアドバイスしています。私も初めて受ける授業なので、SAという立場ではありますが、授業の受講生と同じように学びが得られていますね。

――SAだからこその学びはありますか?

SAはクラス全員の課題を見ることができるし、授業中は巡回することで全員がどんなことを考えているかがだいたい分かります。客観的に見ていてみんなの熱意が感じられ、刺激を受けています。

――授業で得られた学びは、社会に出てから活かせそうですか?

自分だけじゃなく、人をどう動かすかを考えるのはすごく大事だし、能力として必要なことだと思います。この授業で理論を教わることで、具体的にどうすればいいかが学べました。これから就活で自己分析をしていくにあたって、自分の中でモヤモヤしていたことが、この授業によってはっきりすることもありました。

 

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

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