2021年 製薬業界ニュース10〜学生が知っておくべき業界事情〜

「製薬業界のニュースが知りたい!」 「製薬業界って今どうなっているの?」 製薬業界への就職を希望している学生さんは、特に気になるのではないでしょうか。 そこで今回は、2021年に報じられた重要なニュースをまとめました。今回も製薬の世界を常に追い続ける専門誌『薬事日報』さんに依頼。これからどう働くか、どう生きていくかを考えるために、プロの知見を活用してください。

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協力:

株式会社 薬事日報社

医薬業界向け専門紙「薬事日報」、薬学生向け情報紙「薬事日報 薬学生新聞」等の発行をはじめ、電子メディアの運営、専門情報書や実務書、解説書などの図書出版を手掛ける。

新型コロナウイルス感染症ワクチンが続々と登場

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厚生労働省は2021年2月に米ファイザーの新型コロナウイルス感染症予防ワクチン「コミナティ筋注」を特例承認しました。政府は、全国民がワクチン接種を受けられるよう海外のワクチンメーカーから供給を受けられる契約を締結。その後、米モデルナ製、英アストラゼネカ製ワクチンが続々と承認され、医療従事者に対する優先接種を皮切りに、高齢者、一般の人たちと全国民へのワクチン接種が行われました。現在では3回目の追加接種や12~15歳に対する接種も行われ、さらには12歳以下に対する接種もスタートしています。

わずか1年程度の期間で開発から承認申請、承認へと駆け上がるのは、これまでのワクチン開発の歴史を考えると異例でした。その一方で国産コロナワクチンの開発は海外に出遅れ、国がリーダーシップを取ってワクチン開発を推進していく必要性も突き付けられました。

※つまりこういうこと※
新型コロナ向けワクチンが、これまでと違う次元のスピードで開発。日本は出遅れてしまった。

軽症者向けコロナ経口治療薬が特例承認

2021年のクリスマスイブに、自宅でも服用可能な軽症者向け治療薬が国内に登場しました。厚生労働省は、MSDが開発した新型コロナウイルス感染症治療薬「ラゲブリオカプセル200mg」(一般名:モルヌピラビル)を特例承認。投与対象は、18歳以上の重症化リスクのある軽症から中等症Ⅰの患者で、軽症者向けの経口薬の承認第1号となりました。

後藤茂之厚生労働相は、記者会見で「軽症者向けの経口治療薬は国民が安心して暮らせるための切り札になり得る」と話しました。厚労省がMSDから国内供給分を買い取り、医療機関や薬局で投与が始まっています。今年2月にはファイザーの「パキロビッドパック」が2剤目となる軽症者向け経口治療薬の特例承認を取得し、コロナの治療選択肢が拡大しました。

※つまりこういうこと※
新型コロナの飲み薬が広まる予想。

2023年度に全都道府県で後発医薬品(ジェネリック医薬品)数量シェア80%目標が策定

「経済財政運営と改革の基本方針2021」では2023年度に全都道府県で後発医薬品(ジェネリック医薬品)数量シェア80%を達成するとの新目標が掲げられました。現在、全国のジェネリック医薬品数量シェア80%の目標はほぼ達成する一方、都道府県別で見ると80%に届いていない地域も見られるため、地域差がなくジェネリック医薬品が使われる環境を目指すことになりました。

ジェネリック医薬品をめぐっては使用促進が求められる一方で、足下では信頼回復が喫緊の課題となっています。一部のジェネリック医薬品メーカーが製造不正で行政処分を受けた不祥事は、ジェネリック医薬品業界に衝撃を与えました。この余波で多くの品目で欠品や出荷調整が相次ぎ、医療機関や薬局ではジェネリック医薬品から先発医薬品に切り換える動きも見られます。患者が安心してジェネリック医薬品を服用できるよう、業界・企業でコンプライアンス体制強化が最重要課題となっています。

※つまりこういうこと※
ジェネリック医薬品をより広く活用する動きは継続、一方で業界の体制が課題に。

医薬品産業ビジョン2021が策定

厚生労働省は「医薬品産業ビジョン2021」を策定しました。ビジョン策定は8年ぶりとなります。

ビジョンは、「革新的創薬」「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」「医薬品流通」「経済安全保障」の4つを政策ターゲットに置いています。日本企業の研究開発力低下に対する懸念が強まる中、ベンチャーやアカデミアなどとの協業で創薬力強化を促す一方、欠品が相次ぐジェネリック医薬品については安定供給の確保を最重要課題に位置づけ、ジェネリックメーカーに重い責任を課しました。

注目が集まる経済安全保障では、緊急時の医薬品の安定供給について「平時からの備えが必要」としました。原薬・原材料や製品を特定国に依存している場合が多く、特に医療上必要な医薬品については供給不安リスクの低減を図る必要があると指摘しています。

※つまりこういうこと※
日本の研究開発力低化の懸念、また緊急時への備えが大きな課題に。

緊急時薬事承認制度の創設方向性固める

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厚生労働省の部会は、12月に感染症のアウトブレイク等の緊急時に迅速にワクチン・治療薬などを承認可能な緊急時薬事承認制度を創設する方向性をまとめました。新型コロナに対応した国産ワクチン・治療薬が開発されなかった反省を踏まえ、これまで必要だった大規模な検証的な臨床試験を実施しなくても承認が可能となる制度の導入を目指すもの。政府は今年3月に医薬品医療機器等法の改正法案として閣議決定し、今通常国会で審議が行われる予定です。

改正法案では、医薬品全般、医療機器、再生医療等製品を対象に、一定の状況下で有効性に関しては入手可能な臨床試験の成績から「推定」、安全性については通常の薬事承認と同等水準であることを「確認」した上で、概ね2年間を期限に承認します。ただし、有効性等が確認できない場合、承認を取り消すこととしています。

国民の生命や健康に重大な影響を与える恐れのある疾病など必要な薬剤をいち早く患者に届けるためにも、有事に対応した柔軟な承認制度は業界からも強く要望されていました。

※つまりこういうこと※
新たな感染症などへの対策を、国レベルで強化する動きが具体的に。

アルツハイマー病治療薬が承認されず

厚生労働省の部会は12月、バイオジェン・ジャパンが承認申請したアルツハイマー病(AD)治療薬「アデュヘルム点滴静注」(一般名:アデュカヌマブ)について、現行のデータでは承認せず、継続審議とすることを決定しました。

米国食品医薬品局(FDA)はアミロイドβプラークの減少を示した臨床試験データをもとに代理エンドポイントに基づきアデュヘルムを迅速承認しましたが、日本は欧州医薬品庁(EMA)と同様、臨床的有用性が十分に確立していないと異なる見解を示しました。

アルツハイマー病治療薬は数種類の薬剤が承認されていますが、いずれも症状進行を遅延する効果にとどまり、早期発症段階で認知機能を改善する疾患修飾薬が待望されていました。多くの製薬企業が開発にチャレンジするものの、臨床試験の有効性評価項目を満たせず失敗する事例が相次いでおり、AD治療薬を開発する難しさが改めて浮き彫りとなりました。

※つまりこういうこと※
アルツハイマー病は極めて難しく、世界の課題。

MR総数が7年連続減少

2021年3月末時点のMR総数は前年比3,572人減の53,586人となり、3年連続で過去最大の減少幅となりました。前年から減少するのは7年連続です。

ピーク時の2013年には65,000人を超えるなど活況を呈しましたが、その後は減少基調が続いています。大型新薬の枯渇、病院のMR訪問規制、新型コロナウイルスの感染拡大などで対面型の情報提供活動からリモート型の情報提供活動にシフトしていることが影響しているのかもしれません。

とはいえ、付加価値の高い情報を提供してくれるMRには、依然として医師からも高い需要があり、情報提供の質が問われているといえそうです。

※つまりこういうこと※
MRという仕事は、新たな環境への対応が求められている。

製薬各社、DXが加速

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コロナ禍で製薬企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速しています。研究開発や製造、営業、管理など各部門のプロセスにデジタル技術を取り入れ、業務のコスト削減や生産性向上、そして患者視点での価値創造に取り組んでいます。

国が進める規制緩和の後押しを受け、患者が医療機関に来院せずに、自宅から臨床試験に参加できる環境整備に加え、ロボット技術やAIによる自動化した医薬品製造や品質管理プロセスを取り入れようとしています。

製薬各社はデジタルに特化した専門部署を設置し、医薬品以外のビジネスモデルを模索する動きもあります。スマートフォンアプリで地域住民の生活習慣を改善し、病気にかかる前段階で介入する予防・健康増進のソリューションや、アプリで病気を治療する「治療用アプリ」、VR(バーチャルリアリティ)による治療法などの新たな市場に参入する動きも出ています。

※つまりこういうこと※
製薬業界でも、コスト削減、生産性向上は大きな課題。DXが進められている。

製薬各社が地方自治体と連携

製薬各社が地域医療の課題解決に向け、地方自治体と包括的連携協定を締結しています。健康づくりや医療提供体制など地域医療行政に関与し、疾患の啓発活動や早期診断を実現する環境構築などを目指す取り組みです。

製薬企業にとって自治体は事業パートナーになっています。各都道府県の医療提供体制が施設完結型から地域完結型へとシフトする中、製薬企業は自治体と手を組むことで、これまでアクセスできなかった地域住民の未病・予防、さらには退院後のケアにも取り組む機会を得ています。

※つまりこういうこと※
製薬会社のフィールドはより広く、深く、総合的に。

薬価制度改革がまとまる

昨年12月に2022年度薬価制度改革の骨子案がまとまり、4月からスタートします。薬価改定で1.35%、国費で1600億円程度の引き下げが行われることになりました。新薬の特許期間中に薬価を維持する新薬創出加算の対象品目を拡大した一方、特許期間が満了した長期収載品については薬価を引き下げるなど、薬価の適正化を図っています。

今後の焦点は“中間年改定のあり方”をどう考えるか。国の公定価格である薬価と、医療機関・医薬品卸の間で取引される実勢価格には乖離が生じ、これまでは2年に一度の薬価改定で調整していましたが、薬価の引き下げ分の財源を国民にいち早く還元する目的から「毎年薬価改定」が始まっています。2023年度は中間年改定に当たる年度となり、改定の対象品目の範囲については今後の検討課題となりました。新薬開発には多大な時間とコストがかかるため、製薬業界からは大規模な改定が行われるとイノベーションに影響が生じるとの懸念が示されています。

※つまりこういうこと※
薬価制度が4月から新しいものに。しかし課題は多い。

【まとめ:2021年の製薬業界】

2021年の製薬業界は、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンや治療薬の研究開発が進み、イノベーションの価値に注目が集まりました。その一方で、使用割合80%に到達した後発医薬品の信頼性が揺らぎ、品質と安定供給を確保する重要性も問われました。まさに、“光と影”を映し出した1年となりました。

コロナ収束後も難局が予想され、毎年薬価改定が製薬企業に重いプレッシャーとなり、日本の医療用医薬品市場は本格的な縮小局面に突入する可能性があります。将来への危機感は強く、海外展開を強化する企業、DXを推進する企業、異業種と提携する企業、地方自治体と連携する企業と、変革で新たな活路を見出す動きが加速しています。

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