あ、就活に失敗したかも?と思った時に思い出したい先人の知恵

就活はこれからの人生を左右する一大事であり、もし、「就活に失敗した」と思ったら……。なかなかシビアな問題です。

就活に失敗したとひとことで言っても、様々なケースが考えられます。

  • 第一志望の会社に就職できなかった
  • 正社員として就職できなかった
  • そもそも内定が取れなかった

仮に第一志望の会社に就職できたとしても

  • 配属先が希望と異なった
  • 仕事内容が想像と違っていた
  • 思っていた以上に負担が大きい

など、ひとりひとり抱える問題は異なっています。

就職活動に失敗したと思ったとき、反省することは必要ですが、自分自身を責めすぎる必要はありません。なぜなら、似たような(あるいはより厳しい)経験をした先人たちが書物などを通じて言葉にまとめてくれているからです。

サイエンスシフト編集部では、就職活動に失敗したと感じたときの考え方を変えるきっかけになればと考え、先人・偉人・専門家・賢者……の言葉を整理してみました。編集部一同、熱が入り過ぎ、少々長くなりました。気になったところからお読みください。

まずは、ニュートラルな精神状態に戻るところから始めていきましょう。

「一喜一憂しなさんな。」どん底を見た人の人生観

引きこもりや多額の借金、パニック障害……、これでもかというくらいつらい経験をしたのち、今はカウンセラー・作家として多くの人を励ましている中島 輝さん。実際、お目にかかるだけで、自然とこちらもリラックスした気分にしてくれるかたです。

サイエンスシフトでも、その知恵、つまり自己肯定感を高めてポジティブになっていく方法についてじっくりと語ってくれています。

心がしんどいとき、自分を整える〜人生と就活と仕事に役立つ「自己肯定感」の技術〜

https://scienceshift.jp/blog/self-esteem/

見出しの「一喜一憂しなさんな。」とは、中島さんがよくクライアントに手渡す言葉。つまり、「今」を重く大きく捉えすぎないようにしよう、ということです。

もし今、失敗が頭にこびりついて離れないなら、まずはこの言葉を思い出しましょう。そして、できることから行動を起こして、自己肯定感を高めていきましょう。

良い睡眠と食事は、生きるうえでの土台です。身の回りを少し片付けたり、髪を切ったり、ツメを切ったり、コンビニで募金をしてみたり、ベッドを整えてみたり……、なんでもいいので行動を起こしていきましょう、というのが中島さんの教えです。できれば、体を動かすことが良いでしょう。ごくごくカンタンに、「好きなおやつを食べる」でもOKです。

こうしてほんの小さなことでも行動を起こしていくことで、少しずつ、ニュートラルに戻っていきます。これが、落ち込んだ時にまず思い出すことです。

しかし、もし本当に何もする気にならなければ……、それは誰かの力を借りるべきサインかもしれません。友人や親、きょうだい、医師……。少し、話してみるところから始めてはいかがでしょうか。

 

失敗=ストレス。……それにしてもストレスは「悪」なのか?

「就活に失敗した。ストレスやばい」。そういう気分のかたもいらっしゃるかもしれません。

しかしそれにしても、ストレスとはなんなのでしょうか? ストレスイコール「悪」だし、嫌な気分になってもトクなことはないのに、なぜそんな心理的メカニズムがあるのでしょうか?

ストレスにも、意味がある。それが今の科学の認識です。

つまりストレスとは、「生物として、行動を変えるべきサイン」です。単純な例を挙げれば、寒いというストレスがあった時、より温かい環境に移動しなければ健康でいられません。つまり、移動すべき、という生き物が持っていなければならないシグナルです。動物の「仕様」と言ってもいいでしょう。

この認識について詳しく教えてくれるのが、下記の本です。

乱暴を承知でひと言にまとめれば、「ストレスは ”悪” ではない」ということです。ストレスを前向きなものとして使うという知恵を、少し採り入れてみると良いのではないでしょうか。

 

「100年ルール」も役に立つ それは本当に重大なことなのか?

『独学大全』の読書猿さんをご存じのかたも多いでしょう。サイエンスシフトのTwitterでも、たびたびご紹介してきました。

その著書『問題解決大全』の第一の問題解決技法として挙げられているのが、「100年ルール」です。

何か問題があった時、「これは100年後も重大なことか?」と問う。シンプルなルールです。18世紀の文人サミュエル・ジョンソンが発した問いだと言います。

そのキモは、問題の重要度を過大評価しないことです。確かに、100年も経てば、個人のたいていの悩みは消えてしまうでしょう。

もちろんただのはったりやごまかしではありません。後の心理学者ジリアン・バトラーが、その療法の一部として用いていると言います。つまり、心理療法の専門家が認める方法だ、ということです。

100年が長すぎるのなら、10年でも5年でも1年でも構いません。言いかえれば、失敗という認識に押しつぶされないよう距離を取ること、と言えます。

 

「初めての仕事はくじ引きである」と言い切ったP.F.ドラッカー

ドラッカーは、経営学の巨人であり、そしてまぎれもなく、個人の働き方についての賢者でもあります。これまで、サイエンスシフトでも度々ご紹介してきました。

「生産性」現代ならではのもう一つの面とは|ドラッカーに学ぶ生産性の高め方(前編)

https://scienceshift.jp/blog/productivity-drucker-01/

地に足が付いたイノベーション〜ドラッカーに未来の創りかたを学ぶ(前編)

https://scienceshift.jp/blog/mirai-drucker-01/

コミュ力:生活がラクになるコミュニケーションのドラッカー的原則を井坂康志さんに聞く

https://scienceshift.jp/blog/communication-drucker-01/

ドラッカー的:コミュニケーションの扉を開く魔法の言葉と「対立」について

https://scienceshift.jp/blog/communication-drucker-02/

そのドラッカーが言い切ったのが、見出しにある「初めての仕事はくじ引きである」という箴言です。「仕事を知って、自分に向いた仕事場を得るには数年かかる」とも言っています。

つまりは、実際に働いてみないとなにもわからない。自分に合った仕事なのか、やりたかったことなのか、向いているのか、成長できるのか、働く前から予測することはできない。仕事を快適に行う、仕事で成長するということは、現場で取り組んでいかなければならない。……ということです。

サイエンスシフト流に言いかえれば、今ここにある「失敗」に見えることは、実は研究の、またフィールドワークの途中経過なのだ、ということになります。

ならば、失敗は失敗にとどまらず、その先へ進むための実験だった、あるいは今の時点で失敗だと思っても、リカバリーできる。そういうことも言えるでしょう。

実際、これは経験則ではありますが、10年以上現場で働いている人に聞いてみれば、10人中9人は、就活そのものよりもそのあとの行動の方が重要だと答えるはずです。

 

 
ここからは、実際にどう「失敗」に対応していくかを考えていきましょう。おそらく失敗の種類も様々で、それをどう捉えるかも、ひとりひとり違うはずです。できるだけ「原則」と言えそうなものを挙げていきます。

 

「書く」習慣が、人生をドライブしていく

メモを書く、日誌を書く、記録を取る、ひらめきを逃さない、心を整える……、多くの人が、多くの狙いで、とにかく「書く」ことの重要性を語っています。

失敗というテーマで言えば、書くことで、以下のようなメリットがあります。

  • ダメージを受けた心の整理ができる
  • なぜ失敗したか理解できる
  • 失敗の対応策を考えられる

まず、書き出すことで心の整理ができるはずです。頭の中だけでの思考は、グルグルと堂々巡りしがちです。しかし一方、書くときには、ずっと同じことを書き続けることはできません。出来事や自分の反応がすっきりと目に見えるようになるはずです。

理解という側面も、想像しやすいでしょう。書くということは、ぼんやりした思考を、明晰な言葉にしなければなりません。その作業は、自分が経験したことや考えを、より深く理解することにつながるはずです。

対応策を考えられるというのも同じです。書くことは、アイデアを生みます。そしてもしひらめいても、書かなければ失われてしまうことも多いはずです。また、アイデアを評価する、つまり対応策が正しいかどうかも、書くことで精度検討できます。

メモ術、ノート術を解説してくれる本はたくさんあります。読みやすいものとして、以下の新書はいかがでしょうか。

メモとして記録、ログを残すという作業は、自分の行動の改善にもつながります。例えば時間術の基本は、ログを残すことです。サイエンスシフトでも、プロジェクトマネジメントの専門家、佐藤知一さんが日誌の重要性を教えてくれています。就活もひとつのプロジェクトと考えれば、役に立つはずです。

時間管理術(1) 時間をあなたの味方にするために

https://scienceshift.jp/blog/timemanagement-01/

自分の強みを知って、就活や仕事に対応していく

就活にどうしても苦手意識があったとしたら、ドラッカーの考え方を思い出してください(今の仕事内容についていけない、という時も同様です)。それは、

「成果をあげるには並の能力で十分」

というものです。バリバリと就活に励んでいたり、仕事で活躍しているように見える人も、たいていの場合は特別な能力を持っているわけではなく、ただ、その人の「強み」を十分に生かしているのだ。……そうした認識のしかたが、ドラッカー流です。就活に失敗した、就活が苦手、どうにもうまくできない性格……というのは、思い込みかもしれません。自らの強みを生かしてモノゴトにあたれば、道はひらける。

これをわかりやすくかみ砕いて解説してくれたのが、日本のドラッカー研究の第一人者、井坂康志さんです。

「生産性」現代ならではのもう一つの面とは|ドラッカーに学ぶ生産性の高め方(前編)

https://scienceshift.jp/blog/productivity-drucker-01/

就活や仕事という課題にどう対応していくか。何かしらの成果をあげるには、どうしたら良いか。その土台とも言える知恵がつまった記事です。ぜひ、苦手な面にとらわれることなく、自らの強みを生かす道を見つけてください。

 

「ここじゃなかった」と思ったら、改めて考えるチャンス

配属先が思っていたのと違う、仕事内容がイメージしていたものと違う、入ってみたらしんどい会社だった……。「就活の失敗」のひとつのかたちで、確かに難しい問題です。

しかしそんな時には、チャンスが到来したと考えることもできます。

そもそも、そこかどんな場所なのかは、最終的にはそこで働いてみないとわかりません。業界研究に精を出しても、やはり具体的にイメージするのは難しい。ましてやそこで働いている自分がどう働いているか、どう感じているかといった具体的なことは、想像もつきません。

しかし、実際に働いてみれば一目瞭然。さらに、同僚や上司、同業他社の人、関連業種の人をナマで観察し、話してみれば、極めて具体的なことがわかります。

そうした経験を経た後でもう一度「業界研究」をしたならば、本当の意味でその業界のことが見えてくるはずです。自分がイメージしていたことは正しかったのか、理想的な場所はどこになるのか、あるいは理想郷は存在しないのか、「ここじゃない」という感覚は正しかったのか……、リアルな判断ができるはずです。

言いかえれば、もう一度、自分の仕事を考えるチャンス。これからより生産的に、快適に働くスタイルを見つけるための、この上ない機会。そう言えるのではないでしょうか。

 

失敗は自分を知って、自分を生かすきっかけ

失敗は自分を知るきっかけにもなります。

就活中にやりたいと思っていたことは、本当にやりたかったことなのか。自分が得意な仕事のしかたとはどんなものか。弱みをケアして、強みを発揮するにはどうしたら良いか。そうしたことが、失敗を通して見えてきます。その過程を経て、自分なりの仕事のしかたを学んでいくことができます。

言いかえれば、自分の仕事は、自分で作り上げていく。失敗はそのきっかけになる、ということです。

そしてその「作り上げていく」考え方を系統的に学べるのが、「ジョブ・クラフティング」という概念です。もとはアメリカイエール大学のレズネスキー教授とミシガン大学のダットン教授が提唱したもので、仕事を自ら主体的に作り上げていく重要性が語られています。

企業側目線ではありますが、以下の書籍が参考になります。

「クラフティング」という用語の通り、仕事は与えられるものではなく、自ら手作りをしていくもの。自分の強みや価値観、性格、性質、人間関係を知り、それを生かす場を作る。実は、これこそが失敗を無意味にする最大の方法かもしれません。

 

自分を知り、世の中を知り、仕事を知る

自分を生かすために自分を知るということはもちろん、世の中や仕事のメカニズムを知ることも、失敗をケアして次へ進むために役立ちます。

世の中を知る方法はたくさんありますが、サイエンスシフトの読者のみなさんには、心理学、特に社会心理学という分野が役に立つかもしれません。

社会心理学とは、その名の通り、心理学のなかでも、人と人や集団との関係を主に扱う分野です。わかりやすく言えば、「人間関係のメカニズムの原則」を解き明かすことを狙いとしています。例えば、合理的な理由だけで動くはずの企業が、いかに個人の感情のようなあいまいな要素に左右されるか、といった点にスポットを当てたりします。平易なものとして、以下の書籍がおすすめできます。

また、より企業にフォーカスしていくと、「組織心理学」という分野もあります。さらに、ポジティブ心理学、パーソナリティ研究などもあります。いずれも自分を知り、世の中を知るために大きな力になります。本を読むだけでわかった気になるのは危険ですが、しかし自分の経験や観察をより意義あるものにするために、こうしたアカデミックな知識も重要なのではないでしょうか。

 

他人と比較したくなったら、横ではなく前を見る

「自分は失敗ばかり。一方あいつはバリバリ就活をこなして、楽しそうに毎日を過ごしている」。……そんな気分になることもあります。つまり他人と比べて自分にダメだしをしてしまう、という状況です。

「他人と比べるのはよくない」と言われたりもします。確かに今、そうしたムードが強くなってきている気もします。これは歓迎すべきことでしょう。しかしそうなると、今度は「比較してしまうクセが抜けない、ダメな自分、つらい」……というループに陥ることもあります。

しかしこの「比較」や、少し話を広げて「承認欲求」は、生物としてのヒトの仕様である、という側面もあります。それが、前述の社会心理学を含めた、科学界の認識です。つまり、ヒトにはそういう仕組みが備わっている。

さらに、その仕組みは無意味に存在しているのではなく、集団で生きていくヒトにとって、何か意味があるというのもまた、広く承認されている考え方ではないでしょうか。

例えば承認欲求は、時折「承認欲求のカタマリ」などとしてネガティブに語られたりすることもあります。たしかに行きすぎは問題ですが、そもそも承認欲求は、集団に参加し、自らを成長させ、集団に貢献するために備わった本能というべき能力です(もちろんヒトは、集団を作る生物です)。

「比較」も同じことです。ゆえに、この「比較してしまう」ことをネガティブに捉える必要はなく、そういうものだと受け止めて、前に進むエネルギーに変えればいい。迎合したりおもねったりということではなく、その時の自分なりの強みを生かして進んでいけばいい。そう言えるのではと思います。

冒頭で述べたように、気軽に「失敗したら、また前に進めばいい!」と言うつもりはありません。しかし、こうして振り返ってみると、失敗とは確かに何かのきっかけになり得る、ということも言えるのだと思います。

あの『スターウォーズ』シリーズに大きな影響を与えたと言われる高名な神話学者ジョゼフ・キャンベルは、膨大な人類の物語を精査したうえで、「あなたがつまずいたところに、あなたの宝はある」と書き残しています。

この言葉を思い出しながら、自分や世の中のことを知り、自分の強みや価値観を生かしていく。「今」だけにしばられず、しかし今できることを積み重ねていく。……そうした道もあるのではないか。それが、サイエンスシフト編集部からの、ささやかな提案です。

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