集中力のピークに雑用をしていませんか?才能を活かす時間術
堀 正岳さんの連載をお届けします。 研究者として重要な問題に取り組みつつ、生産性についての情報発信を続ける堀さんがたどり着いた、いわば「時間管理の原則」とでもいうべきお話です。
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着実な経験を身につけるための仕事術と、志を実力に変えていくためのヒントをお届けする「『正しい』意識の高めかた」。 前回は、時間管理のために時間の使い方を意識するというテーマでした。
前回紹介したとおり、毎週、何に何時間あてているかを調べて、日常の時間の使い方のテンプレートをつくり始めた方は、意外に仕事や成長のために使える時間は少ないことに気づいたと思います。
そして、そのようにして確保できた時間も、すべてが平等というわけではありません。相対的に価値の高い時間と、低い時間とがあって、はかどる時間帯に雑用をしたり、はかどらない時間に大事な作業をいれてばかりでは、自分で自分の才能を殺してしまいかねません。
第2回の今回は、時間を味方につけ、毎日のペースを作って仕事をするためのテクニックについてご紹介します。
一夜漬けはもう通用しない
学生時代にレポートや試験のために、徹夜で勉強をした経験があるという人は多いと思います。褒められたことではありませんが、私にも寝不足の重いまぶたをなんとか持ち上げながら試験をくぐりぬけてきた思い出があります。
あれはあれで楽しいものですし、学生時代は一夜漬けでなんとかなってしまうのが、痛快なところもありました。
しかし論文を書いたり、書籍を執筆したりといった作業は、一夜漬けではとても終わりません。綿密に計画を立て、一日に達成可能な小さなピースを、砂粒で城を作るように積み上げていく必要があります。
その間にも普段の雑用や他の仕事は積み上がっていきます。すべてを同時にこなすことはできませんが、少しずつすべてを進めなくてはいけない。これが一夜漬けの世界の先にある、プロの仕事の現場です。
そこでみなさんに意識していただきたいのが、1. すべての時間は平等ではないという点と、2. 平等ではない時間を味方につけるためのペース作りです。
すべての時間は平等ではない
一日で作り出すことができないものの代表例が、小説でしょう。Mason Curray 氏は書籍 “Daily Ritua¹” で世界中の小説家や、アーティストの時間の使い方を調査してまとめていますが、その調査から、多くの作家が早朝を創造的な作業の時間として利用していることがわかっています。
¹ 邦題 「天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」 メイソン・カリー 著 / フィルムアート社 出版
村上春樹やヴォルテールは朝四時から、ヴィクトル・ユゴーは朝六時からといったように、午前中を創作の時間にあてており、多くの人は午後を家族との時間や、リラックスした社交や遊興の時間にあてています。
こうした時間の使い方には二つの意味があります。ひとつは、早朝に作業を開始することで他の人に邪魔されることがない孤独な時間を大切にしているということ、もうひとつは、長時間睡眠のあとのもっとも頭がすっきりとした時間を、いきなり自分の仕事の最も重要な部分にあてているということです。
しかし、普段仕事をしている人の多くはこの逆をおこなっています。出勤してからの一時間をメールのチェックと返信にあてて、情報収集と称して受動的なウェブサイト巡回をしたりしているうちに午前が終わってしまい、「午後からは本気を出そう」と考えたことがないでしょうか。
これは自分のピーク時間に雑用をおこない、起床してから半日以上も過ぎて疲れてきた頃に最も重要な仕事に挑戦するという、不必要なハードルを自分に強いる時間の使い方といっていいのです。
もちろんメールにはすぐに返信が必要なものもあるでしょうし、午前に時間の自由がないという人もいるかもしれません。それでも自分のピーク時間を意識して、そこに最も大切な仕事を投下するという視点は、一日で終わらない大きな仕事をする際に重要なのです。
ピーク時間をさがそう
そこで、前回の時間の使い方を意識するという作業の続きになりますが、同じ作業をしていても効率が高まる自分のピーク時間を探してみましょう。
「朝はなかなか気分がのらなくて…」という人もいるかもしれませんが、一手間をかけて前日の夜のうちに、次の朝におこなう作業の一覧を書き出してから朝の作業に臨んでみると、思った以上に効率が上がって驚くことになるかもしれません。いま、夜に作業がはかどると感じている方は、意識せず一日をかけて準備をした結果、それが整った夜頃に能率が上がっているのかもしれません。
一人でいる時間帯にピークがやってくる人もいれば、ある程度の刺激があってから初めてピークを作ることができるという人もいるでしょう。まずは、自分のこうした成功パターンを記録して、あとで繰り返せるように分析してみてください。
スプリントではなく、マラソンの時間の使い方
最も効率のよい時間帯でも、なるべくエネルギーを長続きさせるための工夫も取り入れてみましょう。
1980年代にフランチェスコ・チリッロ氏によって提唱されたポモドーロ・テクニックは、集中してから定期的に休息を入れることで、一日にペースを生み出すテクニックとして有名です。ポモドーロとはトマトのことで、欧米のキッチンタイマーにはなぜかトマトの形をしたものが多いことから、この名前がついています。
伝統的なポモドーロ・テクニックでは、作業を決めて25分のタイマーをかけて、その時間中は決められた作業以外なにもせずに集中します。時間がきたら、調子が出ていても無理をせず5分間休息し、30分の単位で仕事をします。
ポモドーロ・テクニックの効果は、25分のあいだ絶対に横道に逸れない集中時間を生み出すという部分と、5分の休息から生み出されています。
この休息があるからこそ、燃え尽きることなく、次の25分をまた集中できるのですから、必ず休みをいれて、可能ならスクリーンなどから目を離して、目の焦点を変えてみましょう。これが緊張を和らげるのに効果があるからです。
ポモドーロ・テクニックの25分+5分の組み合わせは絶対ではありません。ブロガーで、ライフハックというムーブメントの創始者のひとりであるマーリン・マン氏は、48分の集中時間に12分の休息時間で、1時間のペースを生み出す、ダッシュ法という組み合わせを提唱しています。
もっと極端に、10分の集中時間に、2分の深呼吸のペースをくりかえすという人もいます。これはプログラミングなどのような、高度で抽象的な作業に効果があるようです。
ぜひみなさんも、自分の作業とあったペース配分を構築してみてください。
オフピークの作業をテンプレート化する
ピーク時間のペースを守るためには、それ以外の時間の雑用が、貴重なピーク時間に侵入しないように注意する必要があります。
もっとも危ないのがメールの処理です。雑用であることが多いのに、返信や対応に奔走していると、いつのまにか一日の大半を費やしていることがあります。そこでメールについては朝に一度、「爆発物」= すぐに返信しないと重大な結果が生じるものがないかをチェックしたら、実際に返信をしたり、処理をするのは午後にしてしまうという手があります。
仕事によってはこれが不可能という場合もあると思いますが、相対的に価値が低い作業は意識的に別の場所に割り当てて、時間制限とともに処理するのが、ピーク時間を守るのに大事だと理解していただければと思います。これが、自分の才能を活かす一つの考え方です。
こうして時間を組み替えていくと、オフピーク時間にどういう作業をこなすのか、ピーク時間で効果を生み出すには、あらかじめどのような準備をいつすればいいのかというテンプレートができてきます。
この一日のテンプレートこそが、あなたを成長させるレーストラックなのです。なるべく走りやすく、よけいなハードルのないトラックを作れるよう、祈っています。
さて、今回までで時間管理の基本をお伝えしてきましたので、次回からは、タスク管理についてご紹介します。大きな仕事をストレスがないように小さく分解する方法について見ていきましょう。
※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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